撚糸工連事件(ねんしこうれんじけん)とは、日本撚糸工業組合連合会が元経理課長による横領を告訴したのをきっかけに明るみに出て、東京地検特捜部が1985年9月から翌年5月にかけて摘発した戦後日本の汚職事件。通商産業省幹部2名の収賄容疑を経て11人が逮捕、うち7人と任意で事情聴取をされていた現職の国会議員2名を含む9名が起訴された。
撚糸工連職員の横領事件捜査に端を発し、使途不明金の解明を進めるうちに同工連のトップの横領、国家公務員や現職国会議員への贈収賄事件が芋づる式に発覚。現職国会議員である民社党の横手文雄衆議院議員と自民党の稲村佐近四郎衆議院議員の逮捕へと発展した。
政界官界事件についての概要は、「設備共同廃棄事業」の廃止が規定路線となる中、不況にあえぐ繊維業界が同制度の維持を目論み、所管官庁である通産省の職員や政治家に献金・接待攻勢をかけていたことが発覚。設備共同廃棄事業をめぐっては過剰設備を廃棄するために国がその設備を買い上げ続けていては設備を持っていることが利権となり、設備の自然淘汰が進まないとの批判の声があがっていた。撚糸工連関係者はそのような動きを封じ込めるため国会議員を利用し国会審議の場で通産省の担当者を問い糺したり、通産省へ直接的に圧力をかけることを期待して働きかけを行った。その結果、現職国家公務員2名と繊維族議員2名が有罪判決を受けるに至った。
事件の経過 [編集]
1985年
9月11日 - 撚糸工連が元経理課長兼業務課長三谷健一を詐欺罪等で東京地検に告訴。
10月下旬 - 撚糸工連理事長の小田清孝らが工連の資金を私的口座に移し株取引をしている事実が発覚。
12月3日 - 東京地検特捜部、三谷健一を2億7000万円分の業務上横領容疑で逮捕。
12月25日 - 三谷を2億7000万円分の業務上横領で起訴。
1986年
2月13日 - 撚糸工連理事長小田清孝、前専務理事井上修吾、石川県撚糸工業組合事務局長北山春夫、仮より糸の賃加工あっせん業河瀬元憲の4人を4億2000万円分の融資に絡む詐欺容疑で逮捕。三谷も再逮捕。
3月6日 - 約7億6000万円の資金を撚糸工連の口座から私的に引き落とし、利付商工債を購入し、転売益をあげた業務上横領容疑で小田を再逮捕。小田が実質的に経営する「小田興産」(石川県小松市)役員片山将嘉を共犯で逮捕。
3月26日 - 通商産業省工業再配置課長高沢信行、中小企業庁組合兼調整係長高萩岳見を収賄容疑で逮捕。加えて、撚糸連工常務理事高丸欣也を贈賄と証拠隠滅容疑で逮捕。小田、井上を贈賄容疑で再々逮捕。
高沢は東京六本木での飲食代を撚糸工連に支払わせていたこと、高萩は新宿区内の料亭で接待を受けていたことで逮捕となった。
4月16日 - 民社党の横手文雄代議士を受託収賄容疑で任意で事情聴取開始。
4月24日 - 民社党、横手の離党届を正式に受理。同日横手民社党を離党。
4月25日 - 自民党中曽根派の稲村佐近四郎代議士を収賄容疑で任意で事情聴取開始。
4月26日 - 稲村の私設秘書瀬戸口安正を証拠隠滅容疑で逮捕。
4月28日 - 稲村の私設秘書鳥毛之夫を証拠隠滅容疑で逮捕。
5月1日 - 東京地検、横手を受託収賄罪で、稲村を収賄罪でそれぞれ在宅起訴。稲村、自民党を離党。
5月23日 - 三谷を2億円分の撚糸工連利付商工債権横領容疑で追起訴(2億7000万円分については起訴済。合計4億7000万円の業務上横領にて起訴)し捜査終結。稲村の秘書2名を含む4人を処分保留のまま起訴猶予処分。
6月1日 - 稲村、次回の衆院選に出馬しない意向を表明。(横手は潔白を主張し出馬)。
7月6日 - 横手、出馬するも落選。
7月16日 - 東京地裁、高沢を保釈金500万円で保釈を認める決定。
7月11日 - 東京地裁、片山の公判開始。その後他の被告の公判も始まる。
7月30日 - 東京地裁、井上を保釈金2500万円で保釈を認める決定。
8月15日 - 通産省、高萩を懲戒免職。高沢については起訴事実を否認していることを理由に処分見送り。
9月29日 - 東京地裁、収賄で高萩に懲役10月執行猶予2年、追徴金104万円余の有罪判決。
12月25日 - 東京地裁、高沢らへの贈賄、詐欺で小田に懲役4年の実刑判決。その後小田控訴。
12月25日 - 東京地裁、詐欺、業務上横領で三谷に懲役4年の実刑判決。
12月25日 - 東京地裁、贈賄、詐欺で井上に懲役3年執行猶予5年の有罪判決。
12月25日 - 東京地裁、詐欺で河瀬元憲に懲役2年執行猶予3年の有罪判決。
12月25日 - 東京地裁、業務上横領で片山将嘉に懲役1年6月執行猶予2年の有罪判決。
1988年
3月15日 - 東京地裁、高沢に懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金246万余の有罪判決。高沢、その後控訴。
飲食代金計58回、256万円余を業者側に支払わせていたと認定。
1989年
9月7日 - 東京高裁、高沢に懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金244万円余の有罪判決。高沢、その後上告。
高裁は事実認定に誤りがあるとし1審判決を破棄。追徴金の金額が変更された。
11月6日 - 東京地裁、稲村に懲役2年6月、執行猶予3年の有罪判決。稲村は控訴したが後に取下げ1審判決確定。
11月27日 - 稲村、地元石川県羽咋市で開かれた後援会の席上政界引退を正式に表明。
1990年
7月29日 - 執行猶予中の稲村佐近四郎元代議士脳梗塞で死去。
1992年
10月27日 - 最高裁、高沢の上告を棄却する決定。収賄罪にて懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金244万円余が確定。
10月28日 - 最高裁、小田の上告を棄却する決定。3年6か月の実刑が確定。小田収監。
詐欺、業務上横領、通産官僚への贈賄容疑。両代議士への贈賄については公訴時効が成立していた。
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